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HTLV-1感染者の病態の進行に関わる分子の同定と治療への応用の可能性

1.発表者(掲載順)と所属

中島 誠**  (東京大学)
矢持 忠徳 (東京大学)
渡邉 真理子(北里大学)
内丸 薫  (東京大学)
宇都宮 與 (今村総合病院)
東原 正明 (北里大学)
渡邉 俊樹* (東京大学)
堀江 良一* (北里大学)
** 筆頭著者、* 責任著者

2.発表概要

 成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia/lymphoma: ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type-1: HTLV-1) 感染者の一部に発症する難治性の疾患である。本研究では、HTLV-1感染者の感染細胞の一部に発現したCD30が特徴的な花細胞(フラワーセル)の形成に関与するだけでなく、細胞の増殖や染色体異常を起こして病態の進行に関わりうること、CD30を標的としたブレンツキシマブベドチンによる発症予防や治療の可能性を示した。
 成果は北里大学の堀江良一教授のグループ、東京大学、今村総合病院が共同で米国の学術誌Clinical Cancer Researchにて発表した。

3.発表のポイント

① HTLV-1感染者の感染細胞の一部がCD30(注1)という分子を発現し、これらの細胞は病態の進行とともに増加する。
② CD30を発現している細胞は花細胞様の形態、活発な増殖、一部で染色体異常という特徴を示す。
③ これらの特徴はCD30をそのリガンドであるCD30Lで刺激した時に引き起こされることが示され、CD30陽性細胞集団はウイルス感染者において病態の進行に関わることが示唆された。
④ CD30陽性感染細胞は、現在ホジキンリンパ腫などの治療に使用されているブレンツキシマブベドチン(注2)により選択的に除去可能であることを示す基礎的な結果を得た。
⑤ 本研究の成果はATLの発症や進展機序の解明、CD30を標的とした新規治療法の開発につながる可能性がある。

HTLV-1感染者の病態の進行に関わる分子の同定と治療への応用の可能性

4.発表内容

①研究の背景・先行研究における問題点

 ATLはHTLV-1が主に母乳感染などによりT細胞に感染、約50年を経て感染者の3-5%程度に発症する。我が国は世界のHTLV-1 集積地域の1つで西南日本を中心に約100万人の感染者が存在し、毎年約1000人がATLを発症する。世界的には約3000万人のHTLV-1感染者が存在すると推定されている。HTLV-1感染者の大部分は感染細胞が少ない無症候性であるが、感染細胞が増加するに従い一部はATLを発症し、くすぶり型、慢性型は急性型やリンパ腫型に転化すると考えられる。ATLはひとたび発症すると予後不良の疾患で、発症予防を含めた治療法の確立が喫緊の課題となっている。本グループはこれまで、活性化リンパ球表面に誘導されるCD30の細胞増殖シグナルとリンパ系腫瘍の病態への関与を解析してきた。これまでCD30はATLの一部で発現を認めると考えられてきたが、病態への関わりは明らかでなかった。

②研究内容

 ウイルス感染者の末梢血を調べると感染細胞の一部がCD30という分子を発現し、これらの細胞は病期の進行とともに増加することを見出した。
 CD30を発現している細胞についてさらに調べると、これらはATL細胞の特徴として知られている花弁状の核を有する花細胞様の形態、活発な増殖、一部で染色体異常という特徴を示すことがわかった。これらの特徴はウイルス感染者の末梢血やウイルス感染細胞株のCD30をそのリガンドであるCD30Lで刺激した時に誘導されることが明らかとなった。
 CD30L発現細胞は顆粒球やリンパ球、単球などで末梢血、骨髄、リンパ組織に広く存在する。したがって、感染細胞の一部に発現したCD30はCD30Lによる刺激を受けて感染細胞の増殖、分裂異常やそれに伴う染色体異常を起こしながら次第に増幅して感染者の病期の進展やATLにおける病態に直接関与していることが示唆された。したがって本研究の成果は、未だ不明な点の多いHTLV-1感染者の病期の進展やATL発症、発症後の病態の進展のメカニズムの解明につながる可能性がある。
 一方、HTLV-1感染者の末梢血にブレンツキシマブベドチンを加えることにより、CD30発現細胞を選択的に除去できることが明らかとなった。ブレンツキシマブベドチンはホジキンリンパ腫をはじめとするCD30陽性の悪性リンパ腫などですでに臨床応用されていて、その有用性が明らかとなっている。したがって本研究の成果は、病態が進んだHTLV-1感染者やATL発症者に対するCD30発現細胞を標的とした新しい治療法に結びつく可能性があると考えられる。

5.発表雑誌

雑誌名:Clinical Cancer Research(オンライン公開:2018年8月1日)
IF(インパクトファクター)=10.199(2017年度)
論文名:CD30 Characterizes Polylobated Lymphocytes and Disease Progression in HTLV-1–Infected Individuals
著者名:Makoto Nakashima, Tadanori Yamochi, Mariko Watanabe, Kaoru Uchimaru,Atae Utsunomiya, Masaaki Higashihara, Toshiki Watanabe, Ryouichi Horie
DOI :10.1158/1078-0432.CCR-18-0268

6.本件に関する問い合わせ先

北里大学 医療衛生学部 血液学 教授
堀江 良一(ホリエ リヨウイチ)
〒252-0373 神奈川県相模原市北里1-15-1
TEL:042-778-8216
E-mail:rhorie@med.kitasato-u.ac.jp

7.用語解説

注1 CD30
 腫瘍壊死因子レセプタースーパーファミリーに属するレセプター型の膜タンパク質。発現細胞は、正常では活性化リンパ球などに限定されている。リガンドであるCD30Lを膜上に発現した細胞により刺激され、細胞内に取り込まれてシグナルを伝達する。
注2 ブレンツキシマブベドチン
 CD30に対するモノクローナル抗体に、微小管形成を阻害し細胞死を誘導する抗がん剤であるモノメチルアウリスタチンEを付加したもの。
以 上

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