新着情報
  • トップ
  • 新着一覧
  • 栄養を供給してくれる微生物を自分の細胞内に維持できるメカニズムを解明〜深海に住む貝が何も食べずになぜ生きていける?~

栄養を供給してくれる微生物を自分の細胞内に維持できるメカニズムを解明
〜深海に住む貝が何も食べずになぜ生きていける?~

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長:大和裕幸)地球環境部門の研究グループは、海洋研究開発機構海洋機能利用部門および超先鋭研究開発部門、北里大学海洋生命科学部、福井大学医学部、北海道大学低温科学研究所、福岡女子大学と共同で、深海のメタン湧水域に生息する二枚貝シンカイヒバリガイ(Bathymodiolus japonicus)の細胞内共生系について、宿主動物が持つ細胞内の栄養環境シグナルを統合する制御タンパク質複合体であるmTORC1が、共生細菌の維持と消化を制御することを世界で初めて発見し、そのメカニズムを明らかにしました。
 生物多様性保全のため、沖合海洋保護区候補地の重要海域に指定されている深海の熱水域やメタン湧水域には、二枚貝などの動物が生息しています。これらの動物の多くは、体の細胞内で化学合成細菌(共生細菌)と共生関係を結んでおり、共生細菌が作り出した有機物を栄養としてもらって生きています。しかし宿主動物が、共生細菌をどのようにして獲得・維持しているのか、どのようにして共生細菌から栄養を得ているのかについては、これまで不明で、大きな謎でした。
 本研究グループでは、シンカイヒバリガイがエラ細胞の食作用によって形成された食胞の中に共生細菌を包み込んでいることを明らかにしました。また、この共生細菌を包む食胞の膜の表面に存在するmTORC1は、共生細菌から提供される有機物を検知して、共生細菌の維持と分解をコントロールしていることも初めて明らかにしました。
 本成果は、mTORC1が細胞内共生系において重要な働きをしていることを示す、全く新しい証拠を示すものです。mTORC1は多くの生き物に備わっており、細胞の様々な機能を制御する司令塔の役割をしています。そのため、mTORC1の機能や細胞内共生系の成り立ちや進化を理解する上でも極めて重要な成果です。今後、細胞内共生系の制御におけるmTORC1の役割に焦点を当てて研究することで、動物と微生物の細胞内共生の成立と維持メカニズムについてより詳細に明らかになっていくものと期待されます。本成果は、「Science Advances」に8月24日付け(日本時間)で掲載されました。

ポイント

・深海に生息する二枚貝シンカイヒバリガイ類は、その細胞内共生系において、食作用により共生細菌を細胞内に取り込んでいる。その際、細胞内の栄養環境シグナルを統合するタンパク質複合体mTORC1が、共生細菌の維持と消化のコントロールに関与していることを発見した。
・mTORC1は、細胞内のさまざまなシグナルを統合して細胞の機能を調節する働きを持つことがこれまでに知られていたが、細胞内共生に関与する機能もあることが明らかになった。
・細胞内共生は真核生物の進化の原動力となった生命現象で、mTORC1は、昆虫などの他の動物の細胞内共生系でも細胞内共生を制御している可能性がある。本研究は生命進化や生物多様性の創出や保全に重要な知見を提供する。

論文情報

【掲載誌】Science Advances
【論文名】mTORC1 regulates phagosome digestion of symbiotic bacteria for intracellular nutritional symbiosis in a deep-sea mussel
【著 者】多米晃裕、丸山正、生田哲朗、力石嘉人、小川奈々子、土屋正史、瀧下清貴、津田美和子、平井美穂、高木善弘、大河内直彦、藤倉克則、吉田尊雄
【DOI】10.1126/sciadv.adg8364

問い合わせ先

報道に関すること

学校法人北里研究所 総務部広報課
〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
TEL:03-5791-6422
E-mail:kohoh“AT”kitasato-u.ac.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

ページトップ