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サンゴ保全のカギは陸域対策?
―陸域影響の新たな評価方法の確立―
―陸域影響の新たな評価方法の確立―
北里大学海洋生命科学部の安元剛講師、琉球大学農学部の安元純助教(総合地球環境学研究所)、琉球大学理学部の中村崇准教授、産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門の飯島真理子研究員、地質情報研究部門の井口亮主任研究員らの研究チームは、石西礁湖のサンゴ礁保全を目的として人間活動の影響とサンゴ密度、白化、藻類被度との関係を、石灰質の底質に吸着しているリン(底質リン:海水交換性リン酸塩EPS)を測定する新たな手法で調査しました。この研究は総合地球環境学研究所LINKAGEプロジェクトの一環として、環境省の石西礁湖サンゴ群集モニタリング調査のデータを活用して実施されました。調査の結果、底質中のリンが多いほど、サンゴの密度が下がり、白化が進む傾向がみられました。一方、底質リンはホンダワラ類などの海藻の増加とは正の相関がありました。この発見は、サンゴ礁の減少に人間活動が影響していることを数値的に評価し、陸域負荷対策へ重要な知見をもたらします。本研究成果は、Springer Natureが刊行する“Marine Biotechnology”誌に、2025年3月5日(日本時間)に掲載されました。また、2025年3月7日に環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター(沖縄県石垣市)において記者会見を行いました。
ポイント
・底質リンとサンゴ属別群体数の負の相関を発見
底質リン(EPS)値が高い地点では、多くの属のサンゴ密度が有意に低いことが判明しました。特に、Acropora(ミドリイシ属)、Pocillopora(ハナヤサイサンゴ属)、Goniastrea(キクメイシ属)、Galaxea(アザミサンゴ属)の主要なサンゴはEPSの影響を受けやすいことが示されました。一方、Montipora(コモンサンゴ属)や Porites(ハマサンゴ属)は、EPSへの耐性が高いことが示されました。・サンゴ群体数を減少させる底質リン閾値の算出
底質リンがサンゴ群体数を減少させる閾値は、統計学的手法で0.3–0.7μg/gと推定され、特にGalaxea(アザミサンゴ属)では0.27μg/gという最も低い閾値が算出されました。サンゴは種類によって栄養塩に対する感受性が異なることが報告されていますが、本研究でも同様な傾向が見られました。また、稚サンゴのEPS閾値(0.45±0.15μg/g)は、成体サンゴ(0.57±0.15μg/g)より有意に低く、稚サンゴがより感受性が高いことが判明しました。・底質リンとサンゴ白化と藻類増加との関連
底質リン値が高い地点では、健康なサンゴ(白化していないサンゴ)が減少し、ホンダワラ藻類の被度が増加していました。これは、底質リン値の上昇が藻類の成長を促進し、サンゴの生息環境を悪化させている可能性を示しています。・底質リンの起源とサンゴ保全に向けた対策
底質リンの起源に関しては、農畜産業が盛んな地域やエビ養殖の排水のある沿岸域において閾値を遙かに超える地点が多数あることから、陸域の人間活動の影響が高いと推定されます。本成果は石西礁湖自然再生協議会において、多様な関係者間で共有されており、今後、持続可能な地域産業とサンゴ礁保全の両立に向けた取り組みの重要な基礎データとして活用される予定です。論文情報
【掲載誌】Marine Biotechnology
【論文名】Coral Decline Linked to Exchangeable Phosphate in Seawater from Coastal Calcareous Sediments, as Evidenced in Sekisei Lagoon, Japan
(石西礁湖におけるサンゴ衰退と沿岸域の石灰質底質中の海水交換性リン酸塩の関連)
(石西礁湖におけるサンゴ衰退と沿岸域の石灰質底質中の海水交換性リン酸塩の関連)
【著 者】安元 純[1](琉球大学、総合地球環境学研究所)、飯島真理子[1](産業技術総合研究所)、井口 亮[1](産業技術総合研究所)、中村崇(琉球大学)、高田良悟(琉球大学)、廣瀬(安元)美奈(トロピカルテクノプラス)、岩崎雄一(産業技術総合研究所)、保高徹生(産業技術総合研究所)、安元加奈未(東京理科大学)、新城竜一[2](琉球大学、総合地球環境学研究所)、井出涼太(北里大学)、山崎ありす(北里大学)、水澤奈々美(北里大学)、大野良和(北里大学)、鈴木淳(産業技術総合研究所)、渡部終五(北里大学)、安元 剛※(北里大学)
[1]LINKAGEプロジェクト 共同研究員
[2]LINKAGEプロジェクト プロジェクトリーダー
[1]LINKAGEプロジェクト 共同研究員
[2]LINKAGEプロジェクト プロジェクトリーダー
【DOI】110.1038/s41598-025-87299-8
問い合わせ先
研究に関すること
北里大学 海洋生命科学部
講師 安元 剛
e-mail:yasumoto“AT”kitasato-u.ac.jp
講師 安元 剛
e-mail:yasumoto“AT”kitasato-u.ac.jp
報道に関すること
学校法人北里研究所 広報室
〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh“AT”kitasato-u.ac.jp
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