ホーム> イベント・講演会・セミナー >医療衛生学部の高橋伸一郎教授の研究グループが、顆粒球系細胞分化を制御する遺伝子を新たに同定
北里大学医療衛生学部および大学院医療系研究科の高橋伸一郎教授の研究グループは、1急性前骨髄球性白血病細胞に対する2全トランス型レチノイン酸による3好中球分化誘導が、多機能遺伝子メタロチオネインの細胞内過剰発現により強力に阻害されることを発見しました。メタロチオネインの新たな機能として顆粒球系細胞分化阻害能が明らかにされたことにより、白血病の治療法の1つである、分化誘導療法の効果を予測するバイオマーカーとして、同遺伝子発現が応用されることが期待されます。平成26年7月に英文誌に掲載された論文は、カナダの医学情報社Global Medical Discoveryの重要科学論文(Key Scientific Article)に選ばれ、同社ホームページで紹介されました。
北里大学医療衛生学部および大学院医療系研究科の高橋伸一郎教授の研究グループは、顆粒球系4転写因子PU.1が制御する遺伝子を同定することで、顆粒球系細胞分化の仕組みを明らかにすることを試みてきました。これまでに同グループは、PU.1が抑制性に制御する遺伝子としてメタロチオネインを同定し、その造血系細胞内における役割について解析を進めてきました。メタロチオネインは細胞内金属イオンの上昇、ストレス等で発現が著明に増加する因子ですが、顆粒球系細胞における役割は明らかになっていませんでした。そこで、メタロチオネイン遺伝子を導入し作製したメタロチオネイン過剰発現急性前骨髄球性白血病細胞を用いて、各種分化関連遺伝子の発現解析、好中球殺菌能評価による機能評価、形態学的検討、細胞周期解析等、様々な角度から検証を行いました。その結果、これら全てに異常が起こり、メタロチオネインが、全トランス型レチノイン酸の分化誘導効果を著しく阻害するということを見出しました(図)。このような成果は、平成26年7月29日付で英文科学雑誌PLOS ONEに掲載されました。またこれら一連の研究により、メタロチオネイン遺伝子発現の検討が、分化誘導療法の効果を予測するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆されました。
この論文は、カナダの医学情報社5Global Medical Discovery [ISSN 1929-8536]の重要科学論文(Key Scientific Article)に選ばれ、平成26年11月15日付で同社ホームページに紹介されました。なお、この研究は、文部科学省科学研究費補助金などの助成を受けて行われました。
1急性前骨髄球性白血病:成人に最も多いタイプの白血病である急性骨髄性白血病の一種です。急性と呼ばれるタイプの白血病は急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病がありますが、いずれも造血細胞の分化・増殖に異常が起こり、正常な細胞の成熟が起きずに、未熟な芽球と呼ばれる細胞が増加します。その結果、成熟した細胞である正常な白血球・赤血球・血小板が減少することで、感染症・貧血・出血といった致命的な症状が引き起こされる悪性疾患です。その治療は、抗がん剤を使い、芽球を死滅する治療法が主体です。但し、急性前骨髄球性白血病は、分化誘導療法と呼ばれる、芽球を成熟させ好中球へと分化させることにより芽球を消滅することを狙った、比較的副作用が少ない治療法が奏効するタイプの白血病です。
2全トランス型レチノイン酸:上記の急性前骨髄球性白血病の分化誘導療法における治療薬として臨床的にも幅広く用いられています。
3好中球:末梢血液の中で最も多い白血球です。未熟な骨髄性白血病細胞(芽球)が分化誘導ののちに最終的に成熟する細胞です。顆粒球系細胞に含まれます。
4転写因子:細胞の機能発揮に必要な蛋白質を合成するために必須なRNAを作ることを制御する因子です。細胞分化の鍵となるものが転写因子と考えられています。
5Global Medical Discovery社の重要科学論文(Key Scientific Article):理学および医学分野で出版される国際誌を網羅し、同領域から出版される論文中、審査委員が約0.1%を注目論文として選定して紹介するサイトで、国際的に評価があるとされています。
北里大学医療衛生学部血液学 教授
高橋伸一郎
TEL&FAX:042-778-8216